Tuesday, November 3, 2015

書評家、若林踏が読む『東京結合人間』白井智之著

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■異形の世界の鋭利な論理

近年デビューしたミステリ作家の中で、白井智之ほど物議を醸した新人はいないだろう。デビュー作『人間 の顔は食べづらい』は、食糧難の解決のために食用のクローン人間を飼育する日本という、あまりにも特殊な世界を舞台にした異色の謎解き小説であった。ある 読者はアンモラルな世界に唖然(あぜん)となり、また、ある読者は精巧な推理に驚嘆する。白井はデビュー作の時点でその異能ぶりを見せつけたのである。

あれから1年、白井は読者の前に再び現れた。より歪(いびつ)な世界と、より緻密な論理を描いた第2作『東京結合人間』を引っさげて。

本書の舞台となるのは男女が互いの身体を結合させ、「結合人間」と呼ばれる一つの生命体となることで生殖を行う世界だ。この過程で時々、特別な「結合人間」が誕生する。それは嘘が一切付けない性質を持つ「結合人間」で、彼らは「オネストマン」と呼ばれていた。

この設定を聞いただけでも眩暈(めまい)がするだろうが、肝心の物語はもっと奇抜。非道な売春に手を染める若者たちを描く青春犯罪小説風の第1部を経て、第2部では「オネストマン」が集まった孤島で殺人劇が展開するのだ。

容疑者は7人、しかも全員「オネストマン」ならすぐに真相はわかるはず。ところが嘘を言えないはずの7人が皆犯行を否定してしまう。この矛盾にはじまり、 血を吸う巨大ダニや「羊歯(しだ)病」と呼ばれる奇病など、作品世界固有の「異物」が次々と登場しては犯人当てを複雑怪奇なものにしてしまうのだ。

驚くべきは、こうした「異物」が全て謎解きのロジックに活かされることである。一見、読者にショックを与えるためだけに用意されたような設定や小道具も、 隙のない謎解き小説を構築するために無駄なく配置されたパーツであることが、最後にしっかりと明かされる。この徹底した論理構成こそが白井智之の武器なの だ。

グロテスクな表面に惑わされるな。異形の世界の下で白井が描くロジックは実に鋭利で、そして美しい。(KADOKAWA・1600円+税)

評・

sankei

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